京都で注文住宅を建てる際、知っておきたい『景観制度』★PART.2★ <京都市が定めている市街地における『景観地区』のデザイン基準について>
京都市が定めている市街地における『景観制度』についてご存知でしょうか。
京都の町並みは歴史的風情のある家屋が多く残されているため、その景観を守るための
規制や基準が細かく定められています。
京都で注文住宅を建てる際、知っておきたい『景観制度』。
京都市の市街地における『景観地区』では、地区の特性に応じて、屋根の勾配 や
軒の出の寸法、屋根材、外壁面の後退、外壁材などについてデザイン基準が定められています。
今回はPART.2、京都市が定めている市街地における『景観地区』のデザイン基準について
ご紹介させていただきます。
≪屋根≫
独特の形態意匠を有する京町屋等が連たんする、京都固有の趣ある町並み。
まとまりある歴史都市・京都の景観保全・再生を図ることを目指し、
屋根の形式は、勾配屋根が基本とされています。
◆屋根の形式と勾配◆
京町屋の屋根は、屋根面が棟から2方向に傾斜している切妻屋根が基本とされています。
『歴史遺産型美観地区』や『旧市街地型美観地区』では、京町屋などで多く見られる屋根の勾配
(10分の3から10分の4.5まで)を特定勾配として定めるなど、切妻屋根を基本とした
勾配屋根による屋並みの整った良好な通り景観の保全・形成が図られています。
また、勾配の指定のない地区においても、伝統的な木造家屋と調和する勾配として、
10分の2から10分の6までの勾配とすることが求められています。
◆軒・けらば◆
『山ろく型美観地区』や『岸辺型美観地区』などの自然環境の豊かな地域では、軒やけらばの出の最小長さを
デザイン基準として定めています。
また、歴史的な町並みの残る地域では、軒の出、軒庇の出の最小長さをデザイン基準として定めており、
これらの基準によって、優れた町並みの保全・形成が図られています。
切妻平入り屋根
【屋根及び軒庇の出について】
建築物等のデザイン基準において、以下のように定められています。
①外壁面から軒の先端までの水平距離をいう。
②木造にあっては、柱・壁の中心から軒の先端までの水平距離をいう。(※)
(※)木造で外断熱等により、壁が厚くなっている場合は、②のケースとして適用できない場合がある。
(※)軽量鉄骨等において、壁が薄いものについては、②のケースを適用する場合がある。
◆屋上景観◆
建物の屋根部のデザイン基準において、共通基準として、塔屋の高さを制限するとともに、
屋上設備などを設ける場合にはルーバー等で適切に修景するように定められています。
◆屋根の基準◆
屋根のデザイン基準では、勾配屋根が基本ですが、『歴史遺産型美観地区』の「歴史的景観保全修景地区」や
いくつかの「界わい景観整備地区」を除き、それ以外の屋根も認めています。
ただし、認められるものや程度は、地区によって異なります。
【基準例】
(例)〇『歴史遺産型美観地区(一般地区)』低層 〇『旧市街地型美観地区』低層 など
・勾配屋根とすること。ただし、屋上緑化等により良好な屋上の形成に資するものについては、この限りでない。
(例)〇『歴史遺産型美観地区(一般地区)』中層 〇『市街地型美観形成地区』低層 など
・勾配屋根とすること。ただし、(屋上緑化等により)良好な屋上の景観に配慮されたものについては、
この限りでない。
(例)〇『旧市街地型美観地区』中層 〇『市街地型美観形成地区』中層 など
・勾配屋根又は屋上のパラペットの形状等により勾配屋根に類似する工夫を施すなど、
良好な屋上の景観に配慮されたものとすること。
(例)
・勾配屋根又は良好な屋上の景観に配慮されたものとすること。
など、デザイン基準の例を挙げてみました。
これ以外にも、「全体に勾配屋根がかけられない場合の留意点」や、「良好な屋上景観とするための
基本的措置」、「屋上緑化の留意点」、「水平庇のデザインについての留意点」などが屋根の基準として
定められています。
◆屋根の色彩◆
京都の歴史的な町並みにふさわしい、まとまりのある屋根景観を保全・形成するため、屋根の材料には、
色彩の基準が設けられています。
【景観地区における色彩の基準】
■日本瓦及び平板瓦は、原則としていぶし銀。
■銅板は、素材色又は緑青色。(緑青風塗装等は除く)
■銅板以外の金属板及びその他の屋根材は、原則として光沢のない濃い灰色、光沢のない黒。
(緑青風色塗装は使用不可)
【建造物修景地区における色彩の基準】
■日本瓦及び平板瓦は、原則としていぶし銀。
■銅板は、素材色又は緑青色。(緑青風塗装等は除く)
■銅板以外の金属及びその他の屋根材は、原則として光沢のない濃い灰色、光沢のない黒及び光沢のない濃い茶色。
(緑青風塗装は使用不可)
◆屋根材◆
京都の景観を構成する歴史的な建造物との調和を基本として、地区類型ごとに屋根材の基準が設けられています。
【日本瓦・銅板・金属板】
全ての『美観地区』、『美観形成地区』、『建造物修景地区』で使用可能。
【その他の材料】
<その他の材料で当該地区の風情と調和したもの」が使用可能な地区>
〇山ろく型(中高層)、山並み背景型、岸辺型(中高層)、旧市街地型、沿道型・三条通地区(中高層)の
各『美観地区』、『市街地型美観形成地区』、『沿道型美観形成地区・衣掛けの道地区』(中高層)
〇山ろく型(北部地区の低層を除く)、山並み背景型(低層)、岸辺型(低層)の各『建造物修景地区』
上記の地区において、日本瓦以外の粘土瓦、セメント瓦、スパニッシュ瓦、化粧ストレート、
アスファルト・シングル、日本瓦形状の新素材などが使用可能とされていますが、地区によって使用できる材料が
異なりますので、ご確認ください。
【日本瓦、金属板(銅板)又はこれらと同等の風情を有するもの】
『歴史遺産型美観地区』、『山ろく型美観地区』(低層)などでは日本瓦、金属板(銅板)を
基本としているが、それ以外の材料でもこれらと同等の風情を有するものであれば使用可能。
【地域特性を踏まえた良好な屋上の景観に配慮されたもの】
<特定の材料の指定がない地区>
〇沿道型美観地区都市部幹線地区、沿道型美観形成地区幹線地区
〇山並み背景型(中高層)、岸辺型(中高層)、町並み型の各『建造物修景地区』
上記の地区において、屋根材の基準として定められている以外の材料を使用する場合は、個別判断となる。
素材そのもの以外の模様などの付いた屋根材については、原則使用不可。
≪軒庇≫
京町屋をはじめとする伝統的な建造物の外見上の大きな特徴の一つである、
通りに面して設けられた深い軒庇。
このような景観を保全・継承し、現代に生かしていくために、地区によっては、
道路に面して軒庇を設置することが定められています。
◆軒庇の材料◆
原則として、各地区の屋根材の基準に適合するもの。
その他の材料を使用する場合は、軒庇自体の寸法・デザイン、建築物本体や町並みとの調和等により判断。
『歴史遺産型美観地区』においては、日本瓦に限定する場合がある。
◆軒庇の設置位置◆
【高さ】
原則として、2階及び3階の床付近の位置。
ただし、床の位置が変則的な場合は、周囲の建築物との連続性に配慮した位置とする。
【幅】
原則として、道路に面する外壁の全幅。
※塀等を設ける場合や間口が狭い角敷地など、取扱いが例外的な場合もありますのでご確認ください。
※『歴史遺産型』の一部の地区では、軒庇を設置する側の通りが指定されています。
◆配慮事項等◆
【道路側にバルコニーを設ける場合】
原則として、バルコニーの手摺面を外壁面とみなして、軒の出の寸法基準を適用する。
この場合、軒庇とバルコニーという2つの突出した要素が外壁面に表れることになるため、
デザイン上の工夫が必要となる。
デザイン手法の一例として、
・袖壁や格子等を設けバルコニーの突出感を無くし、インナーバルコニーとする
・突出部となるバルコニーと軒庇が取り合うことのないよう設置高さに配慮し、軒庇の裏表をしっかりと見せる
・手摺壁のデザインに配慮し、バルコニー部分のボリューム感を和らげる
などが挙げられる。
【軒下空間のしつらえ】
基準では、特に規定はされていませんが、良好な軒下空間となるよう、軒天の材料・デザイン、
そこに面する開口部や舗装、用途などに配慮することが望まれる。
≪外壁等≫
外壁は、屋根とともに地域の景観を形成する重要な要素。
そのため、地域の景観特性に応じて、外壁の色彩や後退、バルコニーの形態、空調室外機等の修景などの
基準が設けられています。
◆外壁の色彩◆
地域の特性に応じて外壁に使用できる色彩をマンセル値により定められています。
建具や樋についても、この色彩基準が適用されます。
【マンセル値とは】
マンセル値は、色彩を表す3属性である色相(色合い)、明度(明るさ)、彩度(鮮やかさ)による
色の数値表現方法の一つで、色相、明度、彩度の順に表記される。
★色相:色合いを1~10の数字と記号(赤はR、黄赤はYR、黄はYなど)で表示
★明度:明るさを0(完全暗黒)から10(完全純白)の数字で表示
★彩度:鮮やかさを0(無彩色)から始まる数字で表示
【明度及び彩度の区分】
色彩基準では、彩度や明度の区分により建築物等に用いることができる色彩の範囲が定められています。
■彩度の区分(マンセル彩度):高彩度 7以上/中彩度 3を超える7未満/低彩度 3以下
■明度の区分(マンセル明度):高明度 7以上/中明度 4以上7未満※/低明度 4未満
※周辺の町並みや材料によっては中明度の上限を8.5までとする場合がある
【地域の景観と調和する色彩】
色彩基準では、禁止色に加えて、地域特性に応じて使用することができる色彩の範囲が定められています。
❖自然景観と調和する色彩(山ろく型、山並み背景型、岸辺型の美観地区など)
土や自然素材に多いR(赤)、YR(黄赤)、Y(黄)、N(無彩色)系の色相で、低彩度かつ中明度の
色彩を基本とする。
❖歴史町並みと調和する色彩(旧市街地型、歴史遺産型、沿道型⁽三条通地区⁾の美観地区など)
木、漆喰、日本瓦、土塗壁等の自然素材に使用されているYR(黄赤)、Y(黄)、N(無彩色)系の色相で、
低彩度かつ中明度の色彩を基本とし、低明度のN(無彩色)系を除く。
❖沿道及び市街地の町並みと調和する色彩(沿道型⁽幹線地区⁾、市街地型の美観形成地区など)
YR(黄赤)、Y(黄)、P(紫)、PB(紫青)、N(無彩色)系の色相で、低彩度かつ中明度又は
高明度の色彩を基本とする。
【主要な外壁に使用できない禁止色】
●R系・YR系:彩度が6を超えるもの
●Y系:彩度が4を超えるもの
●GY系・G系・BG系・B系・P系・RP系・PB系:彩度が2を超えるもの
以上の色彩は、禁止色として、着色を施していない自然素材を除き、主要な外壁には使用不可。
◆外壁等に使用する材料について◆
❖歴史的建築物の外壁仕上げ
歴史遺産型や旧市街地型の美観地区では、木材、漆喰、土塗壁、石材、レンガ等の自然素材と調和する
形態意匠とする。
仕上塗材の場合は、砂壁・土壁状等の細やかなテクスチュアがあるもの、タイルや外壁パネルの場合は、
水平線を強調したボーダー状のものなどを推奨。
❖建具の色について
歴史遺産型・旧市街地型の美観地区、および山ろく型美観地区・山ろく型建造物修景地区においては、
主に茶、ステンカラー、黒などの建具を使用することが求められています。
特に、白い建具については、原則使用できません。
◆外壁の後退◆
旧市街地型と歴史遺産型の美観地区では、道路に面する3階以上の外壁を1階の外壁から原則として
90㎝以上後退することが基準として定められています。
また、岸辺型美観地区では、河川や道路に面する3階以上の外壁を1階の外壁より90㎝以上後退する
規定が設けられています。
◆インナーバルコニー◆
美観地区および美観形成地区では、道路等の公共の用に供する空き地から見える位置にバルコニーを設ける場合、
外壁面から突出せず、建物の形態意匠と一体的にデザインされた『インナーバルコニー』とすることが
基準として定められています。
この基準は、中高層建築物のみに適用されるものですが、軒庇の設置が必要な歴史遺産型や旧市街地型の
美観地区では、低層建築物であっても『インナーバルコニー』とすることが望まれます。
また、屋外廊下(解放廊下)についてもバルコニーと同様、『インナーバルコニー』とすることが
求められています。
◆設備機器(空調室外機等)の修景◆
エアコンの室外機、給湯器、吸排気ダクトなどの屋外に設けられる設備機器は、設置位置に配慮する、
また道路等の空き地から見える位置にそれらの機器を設置する場合は、建築物の外観意匠と調和した
目隠し等の修景を行うことが基準で定められています。
<修景方法の事例>
・設備機器の前面に格子等を設置し、又は色彩を建築物と合わせること等により建築物の本体と
調和するよう配慮。
・バルコニーに設置したり、建物内部にパイプスペースを設けてダクトを通すなど、建築設備が
見えないように配慮。
・建築設備やダクトを集約して、全面を防音壁や格子で囲うなど、建築計画としての配慮。
≪駐車場等の修景≫
建築物の全面に駐車スペース等の空地を設ける場合、道路沿いに周辺の景観と調和した門や塀等を
設置することが基準で定められています。
また、山ろく部や水辺に面した敷地においても、道路や河川に面した空地部分に生垣や塀等を
設置することが定められています。
<門や塀による駐車場の修景事例>
≪太陽光発電装置≫
美観地区、美観形成地区及び建造物修景地区においては、設置高さや色彩、形態等について基準が
定められています。
共通基準としては、パネルや配管、配線等の色、勾配屋根に設置する場合の設置方法、陸屋根に設置する場合の
設置方法などが定められています。
また、共通基準に加え地区別基準も定められており、勾配屋根に設置する場合、『歴史遺産型美観地区』や
『歴史的景観保全修景地区』において、公共空地等から見える場合は設置不可などの基準が定められているため
注意が必要です。
≪携帯電話用アンテナ≫
設置高さや形態意匠、付属設備の設置方法等について基準が定められています。
【手続きが必要な地区】
美観地区・美観形成地区 すべて
山ろく型建造物修景地区 すべて
山並み背景型・岸辺型・町並み型修景地区 アンテナそのものの大きさが10mを超える場合
【共通基準】
建築物に設置する場合の共通基準として、
・アンテナ、付属設備の最上部が建築物の最上部を超えないこと
・塔屋等の外壁に設置し、壁面からの突出を抑え、建築物本体と均整がとれていること
・設置する機器類、配線等は設置する外壁面の色と同等色とすること
が定められています。
≪その他の取り扱い≫
その他のデザイン基準取り扱いに関して、『軒の高さ』、『塔屋等の高さ』について、
「制限の緩和」及び「適用除外」の条件について定められています。
【沿道型美観形成地区(五条通地区)における植栽等】
五条通沿道(JR丹波口駅~西大路通)は、都市活力の向上に資するオフィスなどが集積するエリアとなるよう、
高度地区において、敷地面積や壁面後退に係る一定の要件を満たす事務所又は研究施設等については、
31mの高さまで建築できることとしています。
こうしたエリアにおいて、高さが20mを超える建築物については、五条通に面して植栽等の基準を定めることで、
歩行者空間と調和した景観形成を誘導することとしています。
【岸辺型美観地区(一般地区)及び歴史遺産型美観地区(一般地区)内の幹線道路沿道での沿道景観の形成】
『歴史遺産型美観地区(一般地区)』・・・河原町通、烏丸通、堀川通、今出川通、丸太町通、
押小路通(堀川通以西に限る)、御池通(堀川通以東に限る)、又は九条通
『岸辺型美観地区(一般地区)』・・・川端通
以上の幹線道路沿道では、歴史的資産や岸辺の景観に配慮し、かつ、幹線道路にふさわしい良好な
沿道景観の形成が図られる場合に限り、軒庇や3階以上の外壁面の後退に関する基準を一部
適用しないことができるとしています。
この他、<仮設建築物に関する取扱い>や、<既存不適格建築物に関する取扱い>、<通常の管理行為、
軽易な行為等に関する取扱い>について、定められています。
いかがでしたか。
地区の特性に応じて、屋根の勾配 や軒の出の寸法、屋根材、外壁面の後退、外壁材に至るまで
細かくデザイン基準が定められているのがお分かり頂けたでしょうか。
周辺環境や場所によって細かく基準が定められており、条件付で「制限の緩和」や「適用除外」に
当てはまる場合もありますので、『景観地区』に指定されている市街地に新しく注文住宅を建てる際には、
窓口でご相談されることをお勧めします。
次回はPART.3、京都市が定めている市街地における『景観地区』の建築物や工作物の建築等を
しようとする場合の景観上の手続についてご紹介します。