京都市が定めている市街地における『景観制度』についてご存知でしょうか。

京都の町並みは歴史的風情のある家屋が多く残されているため、その景観を守るための

規制や基準が細かく定められています。

京都で注文住宅を建てる際、知っておきたい『景観制度』を3回に分けてご紹介します。

今回はPART.1、京都市が定めている市街地における『景観地区』の基準、規制内容について

ご紹介させていただきます。

 

≪景観地区≫

『景観地区』とは、景観法により規定され、市街地の良好な景観の形成を図るために、

都市計画法上に定められる地区のことです。

『景観地区』には、建物の形態意匠(デザイン・色彩など)に関する制限のほか、必要に応じて、

建物の高さの最高限度や最低限度、壁面の位置の制限、敷地面積の最低限度を定めることができます。

『景観地区』内で建築等を行うためには、形態意匠の制限に適合することについて、市町村長の認定を

受けることが必要となります。

京都市の場合、『景観地区』を「美観地区」と「美観形成地区」に分け、景観を損なわず地域の景観の

特性に合わせて、地区類型別に6つの「美観地区」と2つの「美観形成地区」が指定されています。

 

≪京都市のデザイン基準≫

建築物のデザイン基準は、全ての地区で共通する共通基準と、景観地区別の地区別基準によって

構成されています。

さらに、地区別基準では建築物の高さや階数に応じた規模別基準が定められています。

【共通基準】

共通基準では、屋根の色彩(日本瓦、平板瓦は原則いぶし銀・銅板以外の金属板及びその他の屋根材は原則

光沢のない濃い灰色、光沢のない黒)、塔屋の高さ(3m以下<高度地区において建築物の高さの最高限度が

20mを超える建築物は4m以下>)、外壁等の形状(傾斜する壁・柱の禁止、バルコニーの形状)、

主要な外壁材に使用できない色彩(禁止色<赤系の色相で、彩度が6を超えるものなど細かく指定>)、

クーラーの室外機等の設備機器を設ける場合の配慮(設備機器の前面に格子等の設置、又は色彩を建築物に

合わせる)、駐車場等を設ける場合の配慮(道路沿いに周囲の景観と調和した門や塀等を設置)

などが定められています。

【地区別基準】

地区別基準では、地区の特性に応じて、屋根の勾配 や軒の出の寸法、屋根材、外壁面の後退、

外壁材などについてデザイン基準が定められています。

さらに、地区によっては、低層、中層、高層の規模別にデザイン基準が定められています。

個人住宅を建てる際には、低層建築物となりますので、『低層建築物の基準』を参考にすると良いでしょう。

(低層建築物:地階を除く階数が3以下で、かつ、高さが10m以下の建築物)

 

≪景観地区におけるデザイン基準≫

◆山ろく型美観地区◆

山すその緑豊かな自然に調和した低層の建築物が建ち並び、良好な町並み景観を形成している

地域を指定。

〇北白川・銀閣寺周辺 〇渋谷・馬町 〇今熊野・泉桶寺周辺 〇本町筋・稲荷山周辺

【デザイン基準】

■背景となる山並みや隣接する風致地区との調和

■周辺への圧迫感の低減

■門・塀又は生垣等によるまとまりのある通り景観を形成

■緑化による山並みとの調和

   鹿ケ谷周辺

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根とする ・原則として、塔屋等を設けない

・屋根材は、日本瓦、金属板又はこれらと同等の風情を有するもの

・外壁は、道路からの十分な壁面後退又は壁面分節 ・和風を基調とする形態意匠

・自然景観と調和する色彩

・道路に面する駐車場等の空き地に対する門塀等による修景     など。

 

◆山並み背景型美観地区◆

背景となる山並みの緑と調和する屋根の形状等に配慮された建築物が建ち並び、良好な町並みの

景観を形成している地域を指定。

〇下鴨神社周辺(2) 〇田中・吉田 〇京都大学周辺 〇聖護院・吉田山周辺

【デザイン基準】

■見下ろしの景観に配慮したまとまりのある町並み景観を形成

■大規模建築物は東山への眺望に配慮

■周辺への圧迫感の低減

■通り景観の連続性を保全

■背景の山並み又は市街地の緑との調和

   吉田山周辺

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根とする ・原則として、塔屋等を設けない

・屋根材は、日本瓦、金属板又はこれらと同等の風情を有するもの

・外壁は、道路からの十分な壁面後退又は壁面分節 ・自然景観と調和する色彩

・道路に面する駐車場等の空き地に対する門塀等による修景     など。

 

◆岸辺型美観地区◆(一般地区)

良好な水辺の空間と調和した建築物が建ち並び、趣のある岸辺の景観を形成している地域を指定。

〇哲学の道 〇岡崎疎水 〇鴨川東(1)(2) 〇鴨川西(1)(3) 〇高瀬川(2) 〇濠川・宇治川派流

【デザイン基準】

■落ち着きのある町並み景観を形成

■河川側からの眺めにも配慮した形態意匠

■河川に面する設備機器の修景

■良好な河川景観を保全、創生

■潤いと緑豊かな岸辺の景観の形成

   鴨川西

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根とする ・原則として、塔屋等を設けない

・屋根材は、日本瓦、金属板又はこれらと同等の風情を有するもの

・外壁は、圧迫感の低減及び水平方向を強調する形態意匠

・河川に面する3階以上の壁面後退 ・自然景観と調和する色彩

・道路に面する駐車場等の空き地に対する門塀等による修景     など。

 

◆岸辺型美観地区◆(歴史的町並み地区)

〇白川(岡崎・祇園) 〇鴨川西(2) 〇高瀬川(1)

【デザイン基準】

■連坦する町並みの調和に配慮

■岸辺の風情の維持

■歴史的な町並みや周囲の景観と調和した形態意匠

   白川沿川

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根とする ・原則として、塔屋等を設けない

・屋根材は、日本瓦、金属板又はこれらと同等の風情を有するもの

・外壁は、歴史的な町並みや周囲の景観と調和する形態意匠

・河川に面する3階以上の壁面後退 ・歴史的町並みと調和する色彩

・河川に面する空き地に対する垣柵等による修景     など。

 

◆旧市街地型美観地区◆

歴史的市街地内において、生活の中から生み出された特徴ある形態意匠を有する建築物が存し、

趣のある町並みの景観を形成している地域を指定。

〇西陣 〇御所周辺 〇鴨東 〇鴨川 〇二条城周辺 〇職住共存地区(1)(2) 〇本願寺周辺 〇伏見

【デザイン基準】

■京町屋等の歴史的建造物との調和

■良好な屋上景観を形成

■通り景観の連続性を維持

    職住共存地区

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根とする ・原則として、塔屋等を設けない

・屋根材は、日本瓦、金属板又はその他の材料で当該地区の風情と調和したもの

・道路に面する1、2階の外壁に軒庇を設置

・外壁は、歴史的町並み等と調和した形態意匠

・道路に面する3階以上の壁面後退 ・歴史的町並みと調和する色彩

・道路に面する駐車場等の空地に対する門塀等による修景     など。

 

◆歴史遺産型美観地区◆

世界遺産や伝統的な建築物等によって趣のある町並みの景観を形成している地域を指定。

〇下鴨神社周辺 〇御所 〇二条城 〇本願寺 〇祇園・清水寺周辺 〇東寺

〇歴史的景観保全修景地区 〇界わい景観整備地区

【デザイン基準】

■深い軒がつくる落ち着きのある和風基調の町並み景観を保全

■軒の連なりを継承することによる通り景観を保全

■京町屋等の歴史的な町並みとの連続性を維持

■京町屋等の建築様式の継承

    御所周辺

(低層建築物の基準例)<一般地区>

・屋根は、勾配屋根とする ・原則として、塔屋等を設けない

・屋根材は、日本瓦、銅板又はこれらと同等の風情を有するもの

・道路に面する1、2階の外壁に特定勾配の軒庇を設置

・外壁は、歴史的町並み等と調和した形態意匠

・道路に面する3階以上の壁面後退 ・歴史的町並みと調和する色彩

・道路に面する駐車場等の空地に対する門塀等による修景     など。

 

◆沿道型美観地区◆

趣のある沿道の景観を形成している地域及び主として中高層建築物が群として構成美を示し、

沿道の景観を形成している地域を指定。

〇御池通 〇四条通 〇五条通(1) 〇河原町通 〇烏丸通 〇堀川通 〇三条通

【デザイン基準】

■落ち着きある歩行空間を確保

■良好な屋上景観により、統一感のあるスカイラインを形成

■壁面を整えることなどにより整然とした沿道景観の保全・創出

   御池通沿道

(高層建築物の基準例)※

・屋根は、勾配屋根又は勾配屋根に類似する工夫を施し、良好な屋上景観及びスカイラインの形成に資するもの

・外壁は、都心部の幹線沿道の良好な景観と調和のとれた形態意匠

・低層部は石貼り等とし,落ち着いた歩行者空間の形成に資するもの

・塔屋等は,沿道のスカイラインの形成に配慮されたものとすること     など。

 

◆市街地型美観形成地区◆

既に市街地が形成されている地域で、良好な町並みの景観の創出を目的とする地域を指定。

〇小山 〇高野 〇西ノ京 〇壬生・朱雀 〇京都駅周辺 〇西七条・唐橋

【デザイン基準】

■京都らしさを継承した新たな建築を誘導

■建築物の色彩への配慮、屋上景観等の整備により、良好な市街地景観の創出

   西ノ京周辺

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根とする・原則として、塔屋等を設けない

・屋根材は、日本瓦、金属板又はその他の材料で当該地区の風情と調和したもの

・外壁は、歴史的な町並み等と調和し、良好な景観の創出に配慮した形態意匠

・道路からの十分な壁面後退又は壁面分節による周辺への配慮

・市街地の町並みと調和する色彩     など。

 

◆沿道型美観形成地区◆

良好な沿道の景観の創出を目的とする地域を指定。

〇北山・白川通 〇西大路・北大路通 〇二条駅周辺 〇京都駅前 〇その他沿道 〇衣掛けの道 〇五条通(2)

【デザイン基準】

■良好な屋上景観の形成

■京都らしい落ち着きのある通り景観の形成

■スカイラインを整える

   四条大宮付近

(高層建築物の基準例)※

・屋根は、勾配屋根又は勾配屋根に類似する工夫を施し,若しくは外壁上部に水平線を強調する

庇状のものを設けるなど,良好な屋上景観及びスカイラインの形成に資するもの

・道路に面する外壁は,地域の景観特性を活かし,良好な町並み景観の創出に資するもの

・塔屋等は,沿道のスカイラインの形成に配慮されたものとすること     など。

 

≪建造物修景地区≫

『建造物修景地区』とは、景観計画区域のうち、景観地区及び風致地区以外の市街地の区域で、

高度集積地区を除いた地区のことです。

京都市では、地区類型別に4つの『建造物修景地区』が設けられています。

『建造物修景地区』においても、共通基準および地区別基準が定められており、地区別基準では、

低層、中層、高層別に応じて屋根の形状や材料、道路からの壁面後退、門や塀等による修景措置が

定められています。

 

≪建造物修景地区におけるデザイン基準≫

❖山ろく型建造物修景地区❖

山すその緑豊かな自然に調和した良好な町並み景観の形成を必要とする区域を指定。

〇北部 〇西部 〇伏見・山科

【デザイン基準】

■自然風景との調和

■隣接する風致地区との整合

■塀や植栽等の設置による良好な町並み景観の形成

■大規模建築物における緑化誘導

   桂坂地域

(低層建築物の基準例)

・屋根は勾配屋根を基本とする

・屋根材は、日本瓦、金属板又はこれらと同等の風情を有するもの

・外壁は、道路からの十分な壁面後退又は壁面分節等による周辺への配慮

・和風を基調とする形態意匠 ・自然景観と調和する色彩

・道路に面した設備機器の修景     など。

 

❖山並み背景型建造物修景地区❖

背景となる山並みの緑と調和した良好な市街地の景観の形成を必要とする区域を指定。

〇北山周辺 〇太秦周辺 〇西山周辺 〇右京の里

【デザイン基準】

■背景となる山並みと調和した屋上景観に配慮

■周辺への圧迫感の低減

■連続した町並み景観の形成

■山並みと調和した、落ち着きのある町並みの形成

■大規模建築物における緑化誘導

   疎水周辺(下鴨地域)

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根又は勾配屋根に類似する工夫を施し、もしくは屋上を緑化すること等により、

良好な屋上景観の形成に配慮したもの

・屋根材は、日本瓦、金属板又はその他の材料で当該地区の風情と調和したもの

・外壁は、道路からの十分な壁面後退又は壁面分節等による周辺への配慮

・自然景観と調和する色彩     など。

 

❖岸辺型建造物修景地区❖

良好な水辺の空間と調和した趣のある岸辺の景観の形成を必要とする区域を指定。

〇桂川

【デザイン基準】

■河川敷からの眺望を阻害しない屋上景観の形成

■自然景観と調和した外壁の色彩

■外壁面の分節化や植栽による岸辺景観の形成

■大規模建築物における緑化誘導

   桂川岸辺

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根とする

・屋根材は、日本瓦、金属板又はその他の材料で当該地区の風情と調和したもの

・外壁は、道路からの十分な壁面後退又は壁面分節等による周辺への配慮

・自然景観と調和する色彩

・道路や河川に面した設備機器の修景

 

❖町並み型建造物修景地区❖

地域ごとの景観の特性を生かしながら、町並み景観の向上を目指す区域を指定。

〇葛野周辺 〇吉祥院周辺 〇九条周辺 〇竹田周辺 〇久世・久我・羽束師 〇淀・横大路

〇伏見桃山・向島 〇山科

【デザイン基準】

■地域の景観資源を生かした景観形成

■壁面の色彩に配慮

■緑化等による潤いある町並み景観

■大規模建築物における緑化誘導

   上鳥羽地域

(低層建築物の基準例)

・屋根は、勾配屋根又は良好な屋上景観の形成に配慮したもの

・屋根材等は、地域特性を踏まえた良好な屋上の景観に配慮されたもの

・外壁は、道路からの十分な壁面後退又は壁面分節等による周辺への配慮

・市街地の町並みと調和する色彩

 

≪眺望景観保全地域≫

『眺望景観保全地域』とは、眺望景観を保全、創出するために規制が必要と指定されている地域です。

『眺望景観保全地域』は、必要となる規制の内容に応じて、3つの区域に分類されています。

◇眺望空間保全区域◇

視点場から視対象への眺望を遮らないように建築物等が超えてはならない標高を定める区域

◇近景デザイン保全区域◇

視点場から視認することができる建築物等が、優れた眺望景観を阻害しないように形態、意匠、色彩について

基準を定める区域

◇遠景デザイン保全区域◇

視点場から確認することができる建築物等が、優れた眺望景観を阻害しないように外壁、屋根等の色彩について

基準を定める区域

 

 

いかがでしたか。

歴史的風情を感じる家屋が多く残されている京都の町並み。

そのため、『景観地区』に指定されている市街地に新しく注文住宅を建てる際には、その風情と景観を

守らなければなりません。

屋根や外壁の形状や色彩、材質、など細かな規制が多くありますので、ご自身の思い描いている住宅が

その土地に建てられるのかどうか、土地を購入する前に確認しておくことが必要です。

地域によってそれぞれ基準が違いますので、ご自身が注文住宅を建てたい『景観地区』の基準をしっかりと

把握しておきましょう。

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